平成21年度 こころのオルゴール

無言社会

  • 分野: 子ども |
  • 朗読者:矢島正明|
  • RKBラジオ:2009年10月5日 |
  • FM福岡:2010年1月4日

現代社会は、一言も言葉を交わさなくても何不自由なく暮らせる「無言社会」です。

朝、家を出る。電車の切符は自動券売機で買う。バスもワンマンバスだから、降りる時はボタンで知らせるだけ。スーパーマーケットやコンビニで買い物をする時も無言、選んだ品物をかごに入れてレジに出すだけ。店員さんのマニュアルどおりの挨拶に、返事を期待されることもない。代金を払って表に出る。自動販売機にコインを入れると、品物が出てくる。機械で合成された「有難う御座いました」の挨拶を背中に受けながらうちへ帰る。家を出てから帰り着くまで、一言もものを言わずに済む。一切会話をせず、ほとんどの物が手に入ります。

現代の生活が「無言社会」になることに、早くから気づき、対策に取り組んできた先生がいらっしゃいます。北九州市の公立中学校の先生、加藤陽一さんです。
「会話の出来ない子が間違いなく増えています。人と話せない、親しい仲間とだけしか会話ができない、そんな子どもがとても多いんです」

確かに、自分と無関係な存在であれば、挨拶したり言葉を交わす必要はありません。都会では、他人は時として危険な存在ともなりかねません。強引なキャッチ‐セールスに引っ掛からないよう、また犯罪に巻き込まれないよう、子供たちには、見知らぬ他人から話しかけられても簡単に心を開かないよう教えなければならない、という現実もあります。

「子どもたちは、家族や友だち以外の人々と言葉を交わしたり、改まった場面で話す機会が無くなっている」と加藤先生は指摘します。無言社会は、他人に対する無関心や冷淡を生み出す社会です。
他人と触れ合う機会なしに成長した子どもは、大人になっても他人とコミュニケーションをとる経験に乏しく、その能力が育っていません。無言社会をさらに進める原因のひとつです。

子どもたちが、コミュニケーション能力を身につけていくために、何が必要なのか―加藤先生は、「総合的な学習の時間」を利用して、農業や漁業にたずさわってきた人々と触れ合ったり、また昔ながらの商店街で接客を体験したり、といった子どもたちの体験作りに取り組んできました。自然と向き合ったり、物づくりを通じて物と対話したり、雑談交じりで商売をしたりする中で、子どもたちは例外なく日頃見せることの無い笑顔を浮かべるそうです。人と人とのつながりを大切にする、昔から続いてきた暮らしの中にこそ、解決のヒントがある、と加藤先生は考えています。

※複写、転写はご遠慮ください。

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